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  • 「弊社従業員」という一語が伝えるもの

    — 主治医との連携で、産業医の立ち位置をどう示すか —

    What the Phrase “Our Employee” Communicates

    — How Occupational Physicians Convey Their Position in Communication with Treating Physicians —

    はじめに

    主治医に文書を送るとき、対象となる本人をどのように呼ぶか。

    「弊社従業員である〇〇様について」

    「当社社員〇〇について」

    実務では、こうした書き方を目にすることがあります。

    産業医は事業者に選任され、事業場における労働者の健康管理に関わる立場です。

    そのため、産業医が「弊社従業員」「当社社員」と表現すること自体が、直ちに誤りというわけではありません。

    ただ、主治医との連携という場面では、その一語が産業医の立ち位置をどのように伝えるかについて、少し立ち止まって考える必要があります。

    文書では、役割について詳しく説明しなくても、本人をどのように呼ぶかによって、書き手の立ち位置が伝わることがあるからです。

    主治医と産業医は、異なる場所から本人を見ている

    主治医は、患者の治療と療養生活を支える立場にあります。

    一方、産業医は、本人の健康状態と仕事との関係を評価し、安全に働くために必要な条件について、事業者に意見を述べる立場にあります。

    どちらも本人の健康に関わる医師ですが、確認している情報も、その情報を用いて判断する内容も同じではありません。

    この違いが共有されていないと、主治医からは、

    「会社の都合を優先して、就労を求めているのではないか」

    と見えることがあります。

    反対に、職場からは、

    「主治医は、仕事の実情を知らないまま判断している」

    と見えることがあります。

    しかし、その多くは、どちらかが本人のことを考えていないために生じるのではありません。

    異なる場所から、異なる情報をもとに本人を見ていることから生じます。

    「弊社従業員」という言葉がつくる印象

    事業者が主治医に文書を送る場合には、

    「当社の従業員である〇〇について」

    という表現が自然です。

    その文書の主体は、本人を雇用している事業者だからです。

    一方、産業医から主治医へ連絡する場合に同じ表現を用いると、産業医が事業者そのもの、あるいは会社の意思を代弁する者であるかのように受け取られることがあります。

    もちろん、「弊社従業員」と書いたことだけで、産業医としての立場が決まるわけではありません。

    問題となるのは、その言葉が、受け取る主治医にどのような関係を想起させるかです。

    産業医が会社側から就労を求める医師であるように見えれば、主治医が警戒し、率直な意見交換が難しくなることもあります。

    「ご本人」と表現する。

    あるいは、「〇〇様について」と氏名を用いる。

    産業医から主治医に送る文書では、そのような呼び方の方が、事業者とは異なる専門的な立場から連絡していることを伝えやすい場合があります。

    役割は、呼び方にも表れる

    産業医が、自らの役割を文書の中で詳しく説明し続ける必要はありません。

    むしろ、その立ち位置は、文書の細部に表れます。

    「弊社従業員」を別の言葉に置き換えれば、それだけで適切な連携になるわけではありません。

    大切なのは、その一語が、相手にどのような立ち位置を伝えるのかを考えて選ぶことです。

    本人をどのように呼ぶかという小さな言葉の選択にも、産業医がどのような立場で関わろうとしているのかが表れます。

    おわりに

    呼び方だけで、産業医の立ち位置が決まるわけではありません。

    それでも、主治医との間に不要な距離や対立をつくらないためには、文書がどのように受け取られるかを考える必要があります。

    本人をどのように呼ぶか。

    それも、異なる立場にある医師どうしの連携を支える、小さくても大切な実務の一つなのだと思います。

    English Summary

    Occupational physicians and treating physicians are both concerned with an individual’s health, but they work from different positions and use different information for different purposes.

    A treating physician supports treatment and recovery. An occupational physician evaluates the relationship between health and work and advises the employer on the conditions necessary for the individual to work safely.

    In written communication with a treating physician, referring to the individual as “our employee” may unintentionally make the occupational physician appear to speak on behalf of the company. The expression itself is not necessarily incorrect, but it may influence how the physician’s position and purpose are understood.

    Using the person’s name or a more neutral expression may help convey that the occupational physician is communicating from a distinct professional position.

    Terminology alone does not ensure appropriate collaboration. Nevertheless, even a small choice of words can reveal how an occupational physician understands and presents their role.