― 自分の判断の伝え方を振り返る ―
Before Saying “Right?”: Reflecting on How We Communicate Our Judgments
はじめに
「それは大変ですよね」
「配慮が必要ですよね」
「そこまで対応するのは難しいですよね」
日々のやり取りの中で、私自身も「ね」という言葉を使います。相手の気持ちを受け止めたい。少し柔らかく伝えたい。そんな思いで、自然に添えていることもあります。
ただ、後から振り返ると、気になることがあります。
あのとき、私は相手の気持ちに寄り添おうとしたのか。それとも、自分の判断に同意してほしかったのか。
身近な一言だからこそ、その使い方を考えてみたいと思います。
気持ちを受け止めることと、判断を伝えること
「その状況では、ご不安もありますよね」
相手の気持ちを受け止めようとして、こう伝えることがあります。ただ、本人がどう感じているかは、聞いてみなければわかりません。こちらの想像を、本人の気持ちとして扱ってしまうこともあります。
一方で、
「それなら、仕事を減らしたほうがいいですよね」
「その状態で復職するのは難しいですよね」
という言葉には、仕事上の対応についての判断が含まれています。
柔らかく伝えたつもりでも、相手には「同じ判断であることを求められている」と聞こえるかもしれません。
気持ちを聞いているのか。自分の判断を伝えているのか。相手の意見を確認しているのか。
その一言で、自分は何をしようとしているのか。
そこを確かめることが、伝え方を考える出発点になります。
自分には理由があっても、相手に見えているとは限らない
産業医として意見を伝えるとき、自分の中では、健康状態や仕事内容、勤務時間、これまでの経過を踏まえて判断していることがあります。
しかし、その道筋を言葉にせず、
「やはり、配慮が必要ですよね」
と結論だけを伝えると、相手には根拠が見えません。本人への共感から出た意見なのか、産業医個人の考え方なのか、健康と仕事の関係を評価した結果なのかが、伝わりにくくなります。
例えば、働き方の見直しを提案する場面です。
「今の働き方は、少し見直したほうがよさそうですよね」
と伝えるだけでは、何を懸念し、どこを変える必要があるのかが十分に伝わりません。
「ね」という語尾だけで、判断が感情的になるわけではありません。ただ、理由を省いたまま同意を求める形になると、根拠のある意見も、個人の感覚として受け取られることがあります。
何を確認し、何を懸念し、どのような対応が必要と考えたのか。
その道筋を示すことが、具体的な対応を話し合う土台になります。
判断軸は、自分自身が立ち戻るためにもある
判断軸は、相手に説明するためだけのものではありません。
私自身も、本人のつらさを聞けば、何とか力になりたいと感じます。職場の事情を聞けば、その難しさも理解できます。さまざまな立場の話を聞く中で、自分の気持ちが動くこともあります。
そのときに、立ち戻りたい問いがあります。
健康を損なうおそれは、どこにあるのか。
必要な業務を、安全に行える状態か。
そして、その評価を踏まえて、どのような条件を整える必要があるのか。
こうした問いは、自分の意見の根拠を確かめる手がかりになります。
「私は何を根拠に、こう考えたのだろう」
この問いを自分に向けることが、相手に判断を伝えるための準備にもなります。
おわりに
「ですよね」という言葉は、私自身、これからも使うと思います。会話を柔らかくし、相手と気持ちを通わせることもあるからです。
だからこそ、判断を伝える場面では、少し立ち止まりたいと思います。
その判断の理由を、相手が確かめられる形で伝えているか。
身近な一言を振り返ることを、自分が何を根拠に考え、どう伝えているのかを見直す機会にしたいと思います。
English Summary
In Japanese, the sentence-ending particle ne can convey warmth, empathy, or an invitation to agree. When communicating a professional judgment, however, seeking agreement without explaining the reasoning may leave its basis unclear. Occupational physicians can support discussion by explaining the information considered, the health and safety concerns identified, and the working conditions needed. Returning to these questions also helps us examine our own reasoning when different perspectives and emotions influence the conversation.