タグ: Organizational Structure

  • なぜトリガー設計が必要なのか

    — 判断が止まる構造を前提にする —

    Why Trigger Design Is Necessary

    — Designing for Where Decisions Stop —

    はじめに

    職場における健康や働き方の問題は、

    気づいたときに動けばよい

    そのように捉えられることがあります。

    しかし実際には、

    気づいていても、

    動きが止まる場面が繰り返されます。

    これは、

    意識や姿勢の問題ではありません。

    構造の問題です。

    本稿は、

    「なぜ言葉が止まるのか」という前提の上に成り立っています。

    その構造を踏まえたとき、

    なぜトリガー設計が必要になるのかを扱います。

    判断が止まる場所

    これまで見てきた通り、

    管理者は、

    ・評価する立場にありながら

    ・評価してはいけない領域に触れる

    という位置にいます。

    このとき、

    言葉は慎重になり、

    判断は保留されます。

    また、

    理由を言えば評価に聞こえ、

    言わなければ不信感が生まれる

    そのあいだで、

    行動は止まります。

    トリガーがない状態

    このような状況で、

    「気づいたら連携する」

    という前提にすると、

    ・個人の判断に依存する

    ・躊躇がそのまま放置につながる

    ・対応のばらつきが生まれる

    結果として、

    判断は流れません。

    トリガーの位置づけ

    トリガーとは、

    判断を開始するためのものではありません。

    判断を、

    次の役割へと渡すためのきっかけです。

    つまり、

    個人の判断を補うものではなく、

    判断が止まる構造を前提に、

    それでも流れるようにするための設計

    です。

    なぜ設計が必要なのか

    トリガーは、

    自然には機能しません。

    ・裏で動けば不信感を生み

    ・規定化すれば形骸化する

    したがって、

    どのように発動し、

    どのように伝えられ、

    どのように次に渡るのか

    これらはすべて、

    設計される必要があります。

    設計の前提

    トリガー設計の前提は、

    人は躊躇する

    ということです。

    正しく判断しようとするほど、

    言葉は止まる

    この前提に立つことで、

    はじめて設計が必要になります。

    本質

    トリガー設計とは、

    行動を促す仕組みではありません。

    判断が止まる場所を前提に、

    それでも流れる構造をつくること

    です。

    まとめ

    トリガーは、

    あればよいものではありません。

    なぜ止まるのか、

    どこで止まるのか

    その構造を前提にして、

    はじめて必要になります。

    そしてそれは、

    個人の意識ではなく、

    構造によって支えられるものです。

    Keywords

    trigger design

    decision flow

    structural accountability

    workplace decision-making

    organizational structure

    mental health management

    role-based decision making

    decision bottleneck

    occupational health structure

  • では役割はどう設計するのか(実務編)

    — 判断を分けるための配置 —

    How to Design Roles in Practice

    — Structuring the Flow of Decision-Making —


    はじめに

    労働安全衛生体制は、

    役割を保証するものではありません。

    では、

    役割はどのように設計すればよいのでしょうか。

    本稿では、

    「誰を置くか」ではなく、

    「判断をどう流すか」

    という観点から整理します。

    出発点は「判断の流れ」

    役割は、

    人から出発して定義するものではありません。

    まず定義すべきは、

    判断がどのように流れるか

    です。

    職場における意思決定は、基本的に次の流れで構成されます。

    ・事実を扱う

    ・評価する

    ・最終判断につなぐ

    この流れを分けることが、

    役割設計の出発点になります。

     事実を扱う役割

    最初に必要なのは、

    事実を扱う役割です。

    ここで扱うのは、

    ・勤務状況

    ・業務内容

    ・本人の発言

    ・周囲の変化

    といった、

    加工されていない情報です。

    この役割は、

    主に管理職や人事が担います。

    重要なのは、

    ここで判断をしないことです。

     評価する役割

    次に必要なのが、

    事実を評価する役割です。

    評価とは、

    事実を一定の基準に照らして整理することです。

    ここでは、

    ・健康リスク

    ・業務遂行への影響

    といった観点が扱われます。

    この役割は、

    産業保健職が担います。

    ここでも、

    最終判断は行いません。

     最終判断につなぐ役割

    最後に必要なのが、

    最終判断につなぐ役割です。

    ここでは、

    評価された内容をもとに、

    ・どのような配置とするか

    ・どこまで配慮するか

    ・どの制度を適用するか

    といった意思決定が行われます。

    この役割は、

    人事および事業者が担います。

    役割設計で最も重要なこと

    役割設計で重要なのは、

    「何をするか」ではなく、

    どこまで関与するかを明確にすることです。

    ・どこからが自分の役割なのか

    ・どこまでで次に渡すのか

    この境界が曖昧になるとき、

    役割はすぐに崩れます。

    よく起きる崩れ

    構造が設計されていない場合、

    次のようなことが起きます。

    管理職は本来、業務上の評価を担う位置にあります。

    しかし構造が曖昧な場合、評価の軸が分離されず、

    健康リスクの評価まで担ってしまうことがあります。

    ・管理職が健康リスクの評価まで行う

    ・産業保健が最終判断を求められる

    ・人事が事実収集から抱え込む

    その結果、

    判断が一か所に集中します。

    なぜ分けるのか

    役割を分けるのは、

    責任を回避するためではありません。

    判断の質を上げるためです。

    一つの視点に集約された判断は、

    見落としや偏りを生みます。

    分けることによって、

    異なる観点が接続され、

    判断の精度が上がります。

    おわりに

    役割は、

    体制の中に置くだけでは機能しません。

    判断の流れの中に配置されてはじめて、

    機能します。

    役割設計とは、

    人を決めることではなく、

    判断の流れを設計することです。

    制度の上に、

    構造を重ねる。

    そこではじめて、

    組織としての意思決定が機能します。

    Keywords

    • Role Design
    • Decision Flow
    • Organizational Structure
    • Occupational Health
    • Risk Assessment
    • Accountability
  • 評価と解釈は何が違うのか

    — 意見はどこから生まれるのか —

    What Is the Difference Between Assessment and Interpretation?

    — Where “Opinions” Come From —

    はじめに

    職場では、

    「リスクがあると思います」

    「このままでは難しいのではないでしょうか」

    といった言葉が使われます。

    しかしそのとき、

    それがどの段階の話なのかが明確でない

    ことが少なくありません。

    この背景には、

    評価と解釈が分けて扱われていない

    という構造があります。

    評価とは何か

    評価とは、

    事実を選び、一定の基準で整理した状態です。

    たとえば、

    ・時間外労働は月80時間

    ・睡眠時間は平均5時間

    ・疲労の訴えあり

    これらは単なる事実ではなく、

    判断に使える形に整理された状態

    です。

    ここではまだ、

    その状態が何を意味するかは示されていません。

    解釈とは何

    解釈とは、

    評価された情報に意味を与えることです。

    たとえば、

    「過重労働による健康リスクが高いと考えられます」

    これは、評価された状態に対して、

    どのような意味を持つかを示したもの

    です。

    本稿では、この解釈を

    意見(opinion)

    と位置づけます。

    評価と解釈の違い

    評価と解釈の違いは、次の一言で表せます。

    評価は状態を示し、解釈は意味を示す

    もう一段シンプルに言うと、

    評価:どうなっているか

    解釈:それは何を意味するか

    という違いです。

    なぜ分ける必要があるのか

    評価と解釈が分かれていないと、

    ・状態と意味が混ざる

    ・根拠が曖昧になる

    ・判断が感覚的になる

    という状態になります。

    たとえば、

    「危険です」とだけ言われた場合、

    ・何が起きているのか

    ・なぜ危険なのか

    が分かりません。

    一方で、

    評価が示され

    解釈がその上に置かれる

    構造になると、

    判断の根拠が見えるようになります

    意思決定との関係

    意思決定は、

    事実 → 評価 → 解釈 → 決定

    という流れで進みます。

    この中で、

    評価は状態を整え

    解釈は意味を与え

    決定に接続します

    ここが曖昧なままだと、

    ・解釈が先に立つ

    ・結論が先に決まる

    ・理由が後付けになる

    という構造が生まれます。

    おわりに

    実際の思考では、評価と解釈は同時に行われることもあります。

    しかし、それをあえて分けて捉えることで、

    ・どこで認識がずれているのか

    ・何を前提に判断しているのか

    が見えるようになります。

    職場におけるやり取りを整えるために必要なのは、

    単に情報を集めることではなく、

    評価と解釈を分けて扱うこと

    です。

    Keywords

    assessment vs interpretation

    decision-making

    opinion structure

    risk interpretation

    organizational structure

    occupational health

    SAT framework

  • 事実と評価は何が違うのか

    — 意思決定の前提を揃えるために —

    What Is the Difference Between Fact and Assessment?

    — Aligning the Basis of Decision-Making —


    はじめに

    職場でのやり取りの中で、

    「リスクが高いと思います」

    「状況はよくありません」

    といった言葉が使われることがあります。

    しかし、そのときしばしば起きているのは、

    何をもとにそう言っているのかが共有されていない

    という状態です。

    この背景には、

    事実と評価が分けて扱われていない

    という構造があります。

    事実とは何か

    事実とは、

    加工されていない、そのままの情報です。

    たとえば、

    ・労働時間の記録

    ・睡眠時間のデータ

    ・本人の発言

    これらはすべて事実です。

    ここではまだ、

    何が重要か、どのように捉えるかは決まっていません。

    評価とは何か

    評価とは、

    事実を選び、意思決定に使える形に整理したものです。

    たとえば、

    ・時間外労働は月80時間

    ・睡眠時間は平均5時間

    ・疲労の訴えあり

    これは、数ある事実の中から必要なものを選び、

    一定の形に整えたものです。

    ここで重要なのは、

    評価は「良い・悪い」という判断ではなく、

    意思決定のために情報を構造化する行為であるという点です。

    事実と評価の違い

    事実と評価の違いは、次の一言で表せます。

    事実は材料であり、評価はその材料を整理したものです。

    もう一段シンプルに言うと、

    事実:ばらばらに存在している

    評価:意思決定に使える形に並べる

    という違いがあります。

    なぜ分ける必要があるのか

    事実と評価が分かれていないと、

    ・何を見ているのかが分からない

    ・人によって前提が異なる

    ・議論がかみ合わない

    という状態になります。

    一方で、この二つが分かれていると、

    ・どの情報を使っているかが明確になる

    ・評価の前提が共有される

    ・解釈や意見の根拠が見える

    ようになります。

    意思決定との関係

    意思決定は、

    事実 → 評価 → 解釈 → 決定

    という流れで進みます。

    この中で、評価は

    事実と解釈をつなぐ位置にあります。

    ここが曖昧なままだと、

    ・解釈が先に立つ

    ・判断が感覚に依存する

    ・根拠が後付けになる

    といったことが起きやすくなります。

    おわりに

    実際の思考は、事実と評価が同時に行われることも多くあります。

    しかし、それをあえて分けて捉えることで、

    ・どこで認識がずれているのか

    ・何を前提に判断しているのか

    が見えるようになります。

    職場におけるやり取りを整えるために必要なのは、

    「事実を集めること」だけではなく、

    評価を揃えることです。

    Keywords

    fact vs assessment

    decision-making

    information structuring

    risk assessment

    organizational structure

    occupational health

    SAT framework

  • Structural Accountability Theory (SAT):

    A Framework for Translating Health Risk into Organizational Decision-Making

    Abstract

    Occupational health has traditionally been grounded in a medical model that focuses on individual conditions. However, many workplace health issues originate not solely from individual factors, but from organizational structures.

    Structural Accountability Theory (SAT) proposes a framework that reconceptualizes health problems as risks emerging from the interaction between individuals and workplace structures. Within this framework, occupational physicians function not only as medical evaluators but also as translators of health risk into decision-relevant information for organizations.

    SAT provides a structured pathway linking workplace design, risk emergence, medical evaluation, and organizational decision-making, enabling more consistent and reproducible approaches to workplace health management.

    1. Introduction

    In occupational health practice, a recurring phenomenon can be observed:

    issues that originate at the organizational level are often managed as individual health problems.

    Examples include:

    • Long working hours

    • Excessive workload

    • Role ambiguity

    • Breakdown in communication

    While these are structural issues, they are frequently addressed through:

    • Individual consultations

    • Medical advice

    • Health guidance

    • Work fitness assessments

    This mismatch creates a fundamental limitation in current occupational health practices.

    2. Limitations of the Medical Model

    The traditional medical model is inherently individual-centered.

    It is designed to:

    • Diagnose

    • Treat

    • Manage disease

    While essential, this model does not fully account for risks generated by workplace structures.

    As a result:

    • Structural problems are reframed as individual conditions

    • Interventions focus on personal adjustment rather than system change

    • Organizational accountability becomes diffused

    This creates a gap between the origin of the problem and the level at which it is addressed.

    3. Core Concept of SAT

    Structural Accountability Theory introduces a shift in perspective:

    Health issues in the workplace should be understood as risks arising from the interaction between individuals and organizational structures.

    Here, “structure” includes:

    • Work design

    • Working hours

    • Role allocation

    • Decision-making systems

    Risk is defined as:

    The misalignment between individual capacity and structural conditions, expressed as the potential for health impact.

    4. The Role of Occupational Physicians

    Within SAT, the role of occupational physicians is redefined.

    They are not solely clinicians.

    They function as:

    Translators of medically evaluated risk into organizational decision-making language.

    This involves two distinct communication pathways:

    • To workers:

    Supporting understanding and health-related actions

    • To employers:

    Providing structured risk information necessary for decision-making

    This dual communication function is central to the framework.

    5. Structural Pathway of SAT

    SAT organizes occupational health processes into the following sequence:

    Workplace Structure

    → Risk Emergence

    → Medical Evaluation

    → Translation into Decision-Relevant Information

    → Organizational Decision-Making

    → Work Design Adjustment

    This pathway enables:

    • Clarity in responsibility

    • Reproducibility in decision-making

    • Alignment with continuous improvement processes (e.g., PDCA)

    6. Work Fitness as Structural Fit

    SAT reframes work fitness not as a purely medical judgment, but as:

    An assessment of the fit between an individual and a given work structure.

    This leads to three conceptual categories:

    • Fit

    • Conditional Fit

    • Structurally Unfit

    Specifically, “Structurally Unfit” indicates that the current work structure does not allow safe alignment, regardless of individual condition.

    7. Implications for Organizational Practice

    By adopting a structural perspective:

    • Health issues become modifiable at the system level

    • Responsibility is clarified within the organization

    • Interventions shift from reactive to design-oriented

    This enables organizations to:

    • Improve decision quality

    • Sustain risk reduction

    • Integrate occupational health into governance systems

    8. Discussion

    SAT does not replace the medical model.

    Instead, it complements it by addressing its structural blind spots.

    It bridges:

    • Individual-level medical understanding

    • Organizational-level decision-making

    This integration is essential in modern workplaces where:

    • Complexity is increasing

    • Work design is evolving

    • Accountability structures must be explicit

    9. Conclusion

    Structural Accountability Theory provides a framework for:

    • Understanding health problems as structural risks

    • Clarifying the role of occupational physicians

    • Connecting medical evaluation to organizational decision-making

    Ultimately, SAT enables occupational health to move from

    individual response to structural governance.

    Keywords

    Structural Accountability Theory (SAT)

    Occupational Health

    Workplace Risk

    Organizational Structure

    Decision-Making

    Work Fitness

    Risk Translation

    While similar terms may be used in other fields, SAT(Structural Accountability Theory) as defined in this article represents a distinct framework that connects occupational health to organizational decision-making.

  • SAT 定義集

    — Structural Accountability Theory Definitions —

    類似する用語が他分野で用いられる場合があるが、本稿で定義するSAT(Structural Accountability Theory)は、産業保健および組織の意思決定に接続する独自のフレームワークである。

    SATの基本定義

    SAT(Structural Accountability Theory)とは、

    健康問題を個人ではなく職場構造から生じるリスクとして捉え、

    そのリスクを意思決定に接続するための理論である。

    中核となる前提

    健康問題は、個人の属性だけでなく、

    職場構造との相互作用によって生じる。

    構造の定義

    構造とは、働き方を規定する前提条件であり、

    業務設計・労働時間・役割分担・意思決定の仕組みを含む。

    リスクの定義

    リスクとは、構造と個人の適合のズレとして現れる、

    健康影響の可能性である。

    産業医の役割

    産業医は、医学的評価を行うだけでなく、

    その評価を企業の意思決定に接続可能な形へ翻訳する役割を持つ。

    二重のコミュニケーション

    産業医は、

    労働者には健康理解と行動のための言葉を、

    事業者には意思決定のためのリスク情報を伝える。

    意思決定の位置づけ

    就業に関する最終的な意思決定は事業者にあり、

    産業医はその判断に必要なリスク情報を提供する。

    就業判定の本質

    就業判定とは、健康状態の評価ではなく、

    個人と業務の適合を評価するプロセスである。

    Fitの定義

    Fitとは、個人の状態と職場構造との適合の状態を指す。

    Conditional Fitの定義

    Conditional Fitとは、一定の条件下で成立する適合状態であり、

    医学的要因と構造的要因の双方によって規定される。

    Structurally Unfitの定義

    Structurally Unfitとは、個人の状態に関わらず、

    現在の構造下では適合が成立しない状態を指す。

    面談の位置づけ

    産業医面談は問題解決の場ではなく、

    働く上でのリスクを評価し、意思決定に接続するための情報を整理する場である。

    改善の定義

    改善とは、個人への対応ではなく、

    構造の調整によってリスクを低減するプロセスである。

    SATの目的

    SATの目的は、

    健康問題を構造として捉え直し、

    組織として再現性のある意思決定と改善を可能にすることである。

    Keywords

    • Structural Accountability Theory

    • SAT Definitions

    • Occupational Health

    • Workplace Risk

    • Work Fitness

    • Organizational Structure

    • Decision-Making

    • Risk Assessment

  • 産業保健に「構造の視点」が必要な理由

    — SAT(Structural Accountability Theory)とは —


    Why Occupational Health Needs a Structural Perspective

    — Introducing SAT (Structural Accountability Theory) —

    なぜ、この理論が必要なのか

    産業保健の現場では、

    ある共通した現象が繰り返し起きています。

    本来は組織の問題であるはずのことが、

    いつの間にか個人の問題として扱われてしまう、という現象です。

    ・長時間労働

    ・業務過多

    ・役割の不明確さ

    ・コミュニケーションの断絶

    これらは本来、

    組織の構造に関わる問題です。

    しかし実際の現場では、

    ・面談

    ・健康指導

    ・受診勧奨

    ・就業判定

    といった形で、

    個人の健康問題として処理される

    ことが少なくありません。

    なぜ、このズレが起きるのか

    このズレは、

    個人の意識や努力の問題ではありません。

    それは、

    「構造を捉える視点」が欠けていること

    から生じています。

    産業保健は長い間、

    医学の視点を中心に発展してきました。

    健康診断

    疾病管理

    治療

    復職支援

    これらはすべて重要です。

    しかし、

    医学は「個人」を対象とする学問です。

    そのため、

    組織から生じている問題であっても、

    個人の状態として理解し、

    個人への対応として処理してしまう

    という構造が生まれます。

    必要なのは「構造で捉える」という視点

    ここで必要になるのが、

    問題を個人ではなく、構造として捉える視点

    です。

    構造とは、

    ・業務の設計

    ・労働時間

    ・役割分担

    ・意思決定の仕組み

    といった、

    働き方を形づくっている前提そのもの

    を指します。

    そして重要なのは、

    健康問題は、この構造から生じるリスクとして現れる

    という理解です。

    SATとは何か

    SAT(Structural Accountability Theory)は、

    このような視点に基づいて

    産業保健の役割を再定義する考え方です。

    SATでは、

    健康問題を個人の問題としてではなく、

    職場構造から生じるリスクとして捉えます。

    そして産業医は、

    医学的な評価を、企業の意思決定に必要な形へ翻訳する役割

    を担います。

    この流れは、次のように整理されます。

    職場構造

    リスクの発生

    医学的評価

    意思決定への変換

    働き方の設計

    この視点がもたらすもの

    このように構造で捉えることで、

    問題は「個人の努力」ではなく

    改善可能な対象として扱えるようになります。

    つまり、

    ・なぜ起きているのか

    ・どこを変えればよいのか

    ・どうすれば再発を防げるのか

    という問いに対して、

    組織として答えを持てるようになる

    のです。

    これは、

    単なる対応ではなく、

    改善(PDCA)を回すための前提でもあります。

    SATは「対立」ではなく「接続」の理論

    SATは、

    医学を否定するものではありません。

    また、

    個人への支援を軽視するものでもありません。

    むしろ、

    ・個人への医学的理解

    ・組織としての意思決定

    この二つを分断するのではなく、

    適切に接続するための理論

    です。

    これからの産業保健へ

    これからの産業保健に必要なのは、

    より多くの対応ではなく、

    より正確な理解です。

    問題を個人に閉じるのではなく、

    構造として捉えること。

    そして、

    その構造を変える意思決定へとつなげること。

    SATは、

    そのための出発点となる考え方です。

    Keywords

    • Structural Accountability Theory

    • SAT

    • Occupational Health

    • Workplace Risk

    • Organizational Structure

    • Decision-Making

    • Risk Translation

    • Occupational Physician

  • 産業医はなぜ「意思決定のための情報」を伝えるのか

    — 安全配慮義務を超えた、構造としての意味 —


    Why Occupational Physicians Provide Decision-Critical Information

    — Beyond Duty of Care: A Structural Perspective —

    産業医には、

    事業者に対して「働く上でのリスク」を伝える役割があります。

    これは単なる助言ではありません。

    事業者の意思決定に必要な情報を提供する行為です。

    なぜ「伝える必要」があるのか

    事業者は、日々さまざまな意思決定を行っています。

    ・配置

    ・業務設計

    ・労働時間

    ・作業内容の調整

    これらはすべて、

    働くことによって生じるリスクと不可分です。

    しかし事業者は、

    医学的なリスクをそのまま理解できるとは限りません。

    だからこそ産業医は、

    健康情報を、意思決定に使える形へ翻訳する

    必要があります。

    なぜ事業者はそれを受け取らなければならないのか

    事業者には、労働者に対する

    安全配慮義務があります。

    ここで重要なのは、

    この義務は「結果責任」ではなく

    意思決定責任である

    という点です。

    事業者は、

    ・リスクを認識し

    ・それに基づき判断し

    ・必要な措置を講じる

    というプロセスを担っています。

    このとき、

    リスクを知らないままの意思決定は

    構造的に成立しません。

    つまり、

    産業医の情報を受け取らないこと自体が

    意思決定プロセスの欠陥となる

    のです。

    これは「義務の話」ではない

    この構造は、

    単に「法令を守る」という話ではありません。

    むしろ本質は、

    組織が意思決定できる状態を作ること

    にあります。

    産業医の情報は、

    ・リスクを可視化し

    ・判断軸を提供し

    ・組織の選択肢を明確にする

    役割を持ちます。

    個人ではなく「構造」で捉える

    多くの職場では、

    ・不調者対応

    ・面談

    ・配慮

    といった形で、

    問題が個人に帰着されがちです。

    しかし実際には、問題は

    ・業務設計

    ・役割配置

    ・責任の分配

    ・労働負荷

    といった構造から生まれています。

    産業医が伝えるべきは、

    個人の状態ではなく、

    構造の中で生じているリスク

    です。

    構造として捉える意味

    もちろん、個人の要因が関与している場面もあります。

    しかし、そこで「個人の問題である」と判断して思考を止めてしまえば、

    改善はその時点で終わります。

    そのときには妥当とされた判断であっても、

    社会や働き方の変化とともに、

    事業者に求められる水準は変わり続けています。

    だからこそ、

    構造として捉える視点を持ち続けることが、

    改善を回し続けるために不可欠なのです。

    PDCAを回すための前提

    つまり、

    リスクを個人ではなく構造として捉えなければ、

    その情報は意思決定にも改善にも接続されません。

    構造としてリスクが捉えられたとき、

    初めて組織は改善に向かいます。

    これは、

    ISO45001においても明確に示されている考え方です。

    ・Plan:リスクを把握する

    ・Do:対策を実行する

    ・Check:結果を評価する

    ・Act:改善する

    このサイクルは、

    リスクが意思決定に接続されていること

    を前提としています。

    全体の活性化につながる理由

    構造としてリスクが扱われると、

    ・責任が明確になる

    ・判断が個人依存から離れる

    ・組織として再現性が生まれる

    その結果、

    組織全体の機能が安定し、活性化する

    という変化が起こります。

    結論

    産業医が伝えているのは、

    単なる健康情報ではありません。

    それは、

    組織が意思決定するための基盤情報

    です。

    そして事業者がそれを受け取ることは、

    義務だからではなく、

    意思決定を成立させるために不可欠な構造

    なのです。

    Keywords

    Occupational Physician

    Decision-Making

    Risk Translation

    Duty of Care

    Organizational Structure

    ISO 45001

    PDCA

    Structural Accountability